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 さすがに少し早すぎると思ったが、かつて通いなれた家の門に立つとやはり懐かしく、やや旧式になったインターフォンを押してしまった。  茶色い枕木と砂利のアプローチの先に玄関がある。  その扉が開き、懐かしい人が顔を覗かせた。  清正の母、聡子だ。光の顔を見て、なぜか戸惑っている。不思議に思って光のほうから声をかけた。 「あの……、ご無沙汰してます」 「あ……」  パッと、聡子は急に笑顔になった。 「やだ。光くんだったのね」  門を開けるためにアプローチを進んできて、私ったらほんとにバカね、と笑った。 「ごめんなさい。なんだか、朱里さんに見えちゃって……。彼女がここに来るはずないから、どうしたのかしらって思ったの」  さほど高さのない鋳物の門を内側から開いて光を招き入れながら「あなたたち、なんだか似てるのよね」と言った。    朱里は汀を産んだ人で、清正の別れた妻だ。光は一度も会ったことがなかった。 「久しぶりね。清正が結婚した時以来かしら」 「いえ……。あの、一昨年……」 「あ、そうだったわね」  光はそっと目を伏せた。  朱里と籍を入れた清正がこの家を出てから、すっかり足が遠のいていたのは事実だ。けれど、最後にここを訪れたのは、およそ二年前、清正の父が亡くなった時のことだった。 「その節は、どうもありがとう」 「いえ……」 「ひかゆちゃん!」  聡子と立ち話をしていると、玄関ドアを全力で押し開けて汀が外に出てきた。転がるような勢いで駆けてきて、光にぎゅっとしがみつく。  小さな身体を両手で抱き上げた。 「あ、えっと。清正に頼まれて、汀を迎えに来たんですけど……」 「ええ。聞いてるわ」 「……早すぎますよね」  気まずく言うと、聡子は嬉しそうに頷いた。 「忙しくなかったら、上がってゆっくりしていって」 「あ、じゃあ、お線香だけでも……」  もぞもぞ動く汀を地面に下ろすと、そのままぐいぐい手を引かれた。 「おしゅなば、あゆの」 「ん? 何?」  にこにこ笑いながら、聡子が「お砂場ね」と言った。 「光くんに見せたいの? 光くん、よかったら、先にお庭に行って見てあげてくれる?」  光は頷き、汀に手を引かれて七原家の庭に向かった。
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