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「ここですよー」と案内された家の玄関で、ピンポン、とウルフ刑事がチャイムを鳴らすのと、女性が「佐藤さーん!」と大きな声で呼びかけるのは、ほぼ同時だった。
家の奥から、パタパタ、とスリッパを鳴らすような気配がして、玄関ドアがパッと開いた。
「ただいまでつ」
「おかえり、タバちゃ」と、ママはタバちゃんに声をかけると、横の女性に視線を移した。そして、「比嘉さん、タバちゃを見ていてくださって、ありがとうございました。おかげさまで、下の子、寝ました」と、言った。
「シーサーさん……」とヒロ刑事がつぶやく。
「いえ、比嘉です。捜査一課長の比嘉がいつもお世話になっております」と、ニカッと笑った。
(見たことがある、と思ったのはシーサー、いや、比嘉課長に似ているからだったのか!)とウルフ刑事は心の内で手をポンと叩いた。
「あのー、もしかして、比嘉課長とはご兄妹ですか?」と隣でヒロ刑事が聞いた。
「えっ!」ウルフ刑事は下げようとした頭を、ヒロ刑事の方にバッと振り向けた。
こちらこそ、比嘉課長にはいつも大変お世話になっております! と定型文の挨拶をしようと開いた口も、開いたままになってしまった。
人好きのする縁起のよさそうな顔ではあるが、けして美男子とは言えない比嘉課長に似ている、と言っているのと同じだ。
「ヒロ先輩、し、し」
失礼ですよ、と注意するのも失礼な気がして、ウルフ刑事はヒロ先輩のスーツを引っ張った。
「あ、妻です。よく似てるって言われるんですよお」
さいわい、シーサー課長の奥さん、略してシーサー夫人はヒロ先輩の失礼発言には頓着せず、コロコロと笑った。細かいことには、こだわらない性格らしい。
さらに「仲がいいご夫婦は顔が似てくる、って言いますものね」と、タバちゃんのお母さんがうまくまとめてくれた。ウルフ刑事はほっと息をついて、額に浮かんだ汗をそっとぬぐった。
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