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タバちゃんは、フローリングの床にスケッチブックを広げて、赤いクレヨンで絵を描いていた。大人たちは、頭を寄せ合って、スマートフォンに映し出されている画像を覗き込んでいる。
「この絵はもう?」
「はい。もう消えました」
「そう、でしょうねえ……」
スマートフォンの中の画像は、家の外塀に、おそらく水で描かれた絵だった。時間の経過とともに乾いて、絵は跡形もなく消えてしまったのだろう。
「でも、どうしてこの絵が、心霊現象だと思ったんですか? 誰かが水で描いたのかも」
「夫も私も、ただのいたずらだと思ったんです。ですが、タバちゃが……」とタバちゃんのママがチラッとタバちゃんを見る。
タバちゃんは耳はこちらに向けているようだが、聞こえないふりをして、絵を描き続けている。
「塀の絵を真似して、スケッチブックに描き写していたんです。ちょっと、タバちゃ、絵を見せて」
「ハイでつ」と、タバちゃんがとことこ、と歩いてきて、スケッチブックをママに手渡した。
「ええと。ここですね」とタバちゃんのママが開いたページには、可愛い犬の絵が描いてあった。
「タバちゃん、ワンちゃんの絵、上手だねえ」と、ウルフ刑事が手を叩いて褒めた。しかしヒロ刑事はチラッとスケッチブックを覗くと、「犬にこんなに大きな牙があるなんておかしいだろ」と言って、出されたドーナツに、歯をむき出して、パクリと噛みついてみせた。
「ヒロ先輩っ!」
ウルフ刑事は肘でヒロ刑事をつついた。
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