64人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
タバちゃんはスケッチブックを広げて、赤いクレヨンで描いていた絵の続きを描きだした。真っ赤なタコに見える。
しかしシーサーを犬に見間違えた前例がある。いや、本当はシーサーでもなく、比嘉夫人だったのだが。限りなくタコに見えるがタコではない可能性もある。ウルフ刑事が絵を褒めようかどうしようか迷っていると、ヒロ刑事が言った。
「お、タバちゃん、それはタコだな。うまそうだなあ」
「ヒロ先輩、うまそうじゃなくて、上手い、でしょ!」と慌てて耳打ちした。
「タコさん、食べちゃダメでし!」とタバちゃんはプルプルと首を振って、スケッチブックを背中に隠した。
可愛らしいその様子に、あはは、と和やかな笑いが沸き起こった。
ウルフ刑事も一緒に笑っていたが、突然、ハッとなって青ざめた。
シーサー夫人は捜査一課長の奥さんだ。心霊現象の謎を解き明かしてしまったことが、課長に伝わるのは時間の問題だということに、急に気が付いてしまったのだ。
幽霊絡みの事件で、はじめて退職届を書きたい気分にならなかったとはいえ、幽霊担当にされるのはやっぱり絶対に勘弁してほしい、とため息をついたウルフ刑事だった。
(おわり)
最初のコメントを投稿しよう!