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霊能者と黒い服の男~登~
(何故だ……何が起こった……)
久賀は自分の事務所の前で、信じられない物を立て続けに目にすることになった。
あの占い師に関わってから、小一時間も経っていない。
元の形がわからないほど黒焦げになった眷属。
占い師の祖母に送りつけたモノは、久賀が代々引き継ぎ、持つ力も充実していたはずだ。
それがひとたまりもなかった。
とてつもない衝撃が走った途端に、ただの塊となり果てていた。
動物霊は道具にすぎないと認識してはいても、久賀は、はじめて得体の知れない恐れを感じた。
ようやく顔を上げた時、久賀は事務所の前で手を振っている大柄な男がいることに気づいた。
友だちにするような気安い仕草ではあるが、男はにこりともしない。
黒い服を着て、左目には黒い眼帯をつけている。
「何の用だ」
久賀はようやくそう絞り出すように尋ねたが、次の瞬間にまた言葉をなくした。
眼帯の男が、小さな壺のような物を見せたからだ。
「うちのばあさんは恐ろしいけど優しいからな。一発で焼き払ってくれたろう?」
言葉からすると、この男が占い師の兄なのだろう。
どうしてこの男を何も知らない一般人だと認識していたのだ、と久賀は頭を抱えた。
「俺はこういうことには素人だけど、使い勝手のいい道具がうちにはゴロゴロしてるからな」
「返してもらおう。おまえなどに扱えるものではない」
久賀は冷たく言い放った。
眼帯の男は動じない。
「まだ気づかないか。よっぽど動揺してるんだな。よお、『無骸』、おまえのあるじ、当分悪さできねぇようにするぞ」
男は壺の中に呼びかけた。
壺の中身はただガタガタと震えているだけだ。
「どうしてその名を……」
「おまえさ、眷属ならちょっとは大事にしてやればよかったのさ。こいつはおまえらに悪ささせられて嫌気がさしてたんだろう。ああ、教えてくれたよ、こいつが自分の名も他の連中の名も。おまえは名を呼んでやることもなかっただろう?」
男は舌打ちして右の耳を掻いた。
「七体も持ってたか、煩いもんだな」
「!!何をした!!」
久賀は叫んだ。
「大したことじゃねえよ。みんな吞んで消し飛ばしてやった」
にやりと笑った眼帯の男の右耳から、ぼたぼたと血がしたたり落ちた。
「おまえは俺を怒らせたんだよ。うちの者に手を出すことは一切許さない。覚えておけ。山田登という。現在の山田家の当主は俺だ」
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