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「気は強いね。それ位でなきゃいけない。君のお祖母さんは相当な強者で知られているね。けれどもなにぶんご高齢だ。耐えられるかな。それと、君のお兄さんはこの世界の知識はないはずだ。二人の所に僕の眷属を送らせてもらった」
勝ち誇るように、久賀は鼻で嗤った。
「ちょっと、やめて!二人には関係ない!私がやったことなんだから、私とやり合えば済むことでしょう」
「もちろん君にはキツいお仕置きを受けてもらうとも。その前にちょっとした余興は必要だ。楽しみに待ってるがいいよ」
久賀は言いたいことだけを言って去って行った。
瑚珠は唇を噛んでうつむいた。
肩が震え、しゃくりあげるような声が漏れた。
「あっはっはっは!いや~、余興ね。あの二人に。絶対に手を出したらイケないバケモノだよ。そんなことに気づかないなんて」
瑚珠は大笑いした。
「笑いすぎておなかすいちゃった」
腹をきゅるきゅる鳴らしながら、瑚珠は予約の仕事を速攻で終わらせた。
「瑚珠、そこに正座」
家に帰った瑚珠を待ち受けていたのは、祖母の咲の特大の雷だった。
「おまえが余計なことをするから、三日は寿命が縮んだじゃないか。お昼寝が台無しだ」
「あ~、ばあちゃん、お客さん来ちゃった?」
「機嫌が悪かったもんだから、火界呪で焼き払った。浄化させてあげるには変質しすぎていたからね」
ご高齢の咲が弱っている様子はどこにもない。
「ばあちゃんごめんね。あと、アイツ、登ちゃんの所にも贈り物するって……」
「底抜けの阿呆か。人を殺しても構わんほどの悪意をあれにぶつけたら、何が起こるか私にもわからないよ」
久賀が言っていたように、兄の登はこの世界のことは知らないものだと瑚珠は思っていた。
だが、山田家の男にも役割がある。
無意識ならば、ただ心を跳ね返す。
きちんと意識すれば物や人の心を身体の中に呑み込むこともでき、世の理の一部を曲げることも可能だと瑚珠が知ったのは最近のことだ。
その代わり自らの身体、時には命さえも代償としなければ扱える力ではない。
心置き場に関わる祖母の咲のために、代々山田家の当主となる男たちは、その力を咲に貸し、注ぎ込んだのだという。
登の力は、咲にも瑚珠にとっても未知数だった。
「ですよねー」
「ですよねーじゃない。反省するまで夕飯は抜きだ」
「ばあちゃん、瑚珠は本気で反省しました」
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