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山田家にて~咲~
「ただいまー」
玄関で、登の寝起きのような声がした。
「登ちゃん、何か起こった?」
瑚珠はワクワクしているように見える。
「何かって何だ?おう、そうだ!パチンコ行ったら久しぶりについてたぞ。出て出てなかなか止まらなくてな」
登は両手に持った大きな袋を瑚珠に差し出した。
腹ペコだった瑚珠は歓声を上げて袋を抱え、自室へと引っ込んだ。
「まあそうだろうね。普通なら憑いてただろうけど、安定の人外っぷりだ。ちょっとお待ち」
咲が重々しく頷きながら、登を引き止めた。
「心置き場の壺を持ち出したね。あんな厳重な檻を」
「あれ、やっぱりお見通し?」
「瑚珠が前から少々恨みをかってたからね。いつかは来るだろうと思っていた。久賀の連中とやり合うにはそれくらいは必要だったろう。そのポケットの中のモノを渡しなさい。できる限り浄化してみよう」
「頼むよばあちゃん。こいつはあの連中に使われるんでなければそう悪くはならないと思うんだ。『無骸』っていうんだ。俺、風呂入ってくる」
登はそう言い置くと、さっさと壺を咲に渡した。
何気なく受け取った咲は、壺を取り落しそうになった。
咲は、物が持つ記憶を、触れるだけで読み取ることができる。
壺の記憶は、咲の想像をはるかに超えていた。
(登!?あの馬鹿……!!)
争うのが苦手で、いつも何も言わないか冗談ではぐらかすことしかできない孫だ。
これほどの覚悟と怒りを隠し持っているとは今まで思いもしなかった。
(ねえ、稜。あなたと同じで、登もやっぱり山田家の男ですよ。でも、あの子にこんな思いをさせてはいけない。瑚珠もまだまだ修行中だものね。私はもう少し元気でいなくてはね)
今は亡き伴侶に、咲は静かに語りかけた。
【完】
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