66人が本棚に入れています
本棚に追加
赤い髪の占い師~瑚珠~
「あ、面倒なのキタ。店じまいしたいなあ」
軽い独り言は、外にもれていたかもしれない。
山田瑚珠は占い師だ。
細いしなやかな身体つきで、新しい十円玉みたいな赤い髪をしている。
切れ長の目元と低めで微かにかすれた声は少年と間違われることもあるが、一応女性に分類される。
瑚珠と同じ年頃の、やけに爽やかな男が笑みを浮かべてこちらにやってきた。
美形と言ってもいいだろう。
けれども。
(……憑き物筋だ。獣臭ひどいな)
憑き物筋とは、あるじの意をくんで他人に憑依、悪戯をする動物霊を祀る家のことを指す。
そんな瑚珠の内面の呟きを知ってか知らずか。
「山田瑚珠さん、だね。僕は霊能者をやってる久賀と言う。単刀直入に話すけど、あなたが遊び半分でやってる占いは、僕の生業を荒らしてる。僕だけじゃない、同業者にもね、あなたの一族評判悪いよ」
言葉とは裏腹に、久賀は笑みを湛えている。
生業ねぇ、と瑚珠はため息をついた。
瑚珠は、人や物、有形無形の様々なモノたちの声を聴くことができる。
瑚珠の一族、山田家の女は、多かれ少なかれその力を持っている。
絶えず流れ込む無数の声の中から、自身が生きるのに必要なものだけを拾い上げられるようになったのは最近のことだ。
遊び半分は否定しないけれど、占い師という形のない仕事を選ぶしかなかったのだ。
自身の力は呪いにも近いものだと瑚珠は考えている。
山田家の片隅には『心置き場』と名づけられた部屋がある。
管理をしているのは瑚珠と、祖母の咲だ。
一般の人々の、物にまつわる困りごとを解決するために動くことはあるが、これらは暮らしを立てるための仕事ではない。
霊能者や占い師は、仕事の中で生きた人間の悪意や、恨みに我を忘れた霊を抱え込んでしまうこともある。
それらを切り離し、封じ込めるための檻。
それが心置き場の本来の役割である。
霊能者や占い師の中には、故意にねじ曲げ変質させた人や物の心を利用する者もいる。
彼らにとっては、心置き場は疎ましい場所に違いない。
瑚珠の中では、動物霊を扱う久賀の一族の方が厄介だ。
知り合いの占い師や、客を通して後始末をさせられたことは多々ある。
それでも直接関わってこない限り、無視を決め込むだけだった。
「あなたが自分の持っている力や眷属の狐さんたちを依頼の解決に使うのは問題ない。でも、依頼人から必要以上のお金を巻き上げたり、悪さをするのは道から外れてる」
瑚珠は、久賀に負けずににこやかに言い返した。
(あー、やっちゃったな。頼まれもしないことに首突っ込むなんて)
久賀の笑みが歪んだ。
もう笑みとも呼べないだろう。
場の空気の温度が変わるほどに酷薄なものだ。
悪意を隠すつもりもないに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!