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 まだ四十代半ばというのに、額には横一列に、何本ものしわが刻まれている。眉間にはそこだけ刃物かなにかで傷つけられたような、縦に一直線の深いしわがえぐるように出来上がっていた。  目のしたは黄土色にたるみ、シミが大きくなってきている。  ほうれい線はくっきりと、鼻から唇の間で弧を描いていた。 「な、なによこれ……」  思わず、スタンドミラーを床に落としてしまう。  がしゃん、という派手な音とともに鏡面が砕けて、四方へちらばった。  シワにまみれた私の顔が、床の上で比例して増えていく。 「いやよ、いやよこんな……」  どうしたの、と寝かしつけたばかりの玲香が、ねぼけまなこでやってきた。    昨日着替えたばかりのパジャマのズボンが、じっとりと濡れている。    おとといだって、おねしょしたばかりじゃない。  どうしてできないの、トイレって言えないの。  片づけるのはおかあさんなんだから、大変なんだから。    私と目が合うと、玲香がびくんと肩を震わせた。    足元で、ぴちゃぴちゃ、ちょろちょろという弱々しい水音がたち、ちいさな水たまりができあがる。
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