1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
3
まだ四十代半ばというのに、額には横一列に、何本ものしわが刻まれている。眉間にはそこだけ刃物かなにかで傷つけられたような、縦に一直線の深いしわがえぐるように出来上がっていた。
目のしたは黄土色にたるみ、シミが大きくなってきている。
ほうれい線はくっきりと、鼻から唇の間で弧を描いていた。
「な、なによこれ……」
思わず、スタンドミラーを床に落としてしまう。
がしゃん、という派手な音とともに鏡面が砕けて、四方へちらばった。
シワにまみれた私の顔が、床の上で比例して増えていく。
「いやよ、いやよこんな……」
どうしたの、と寝かしつけたばかりの玲香が、ねぼけまなこでやってきた。
昨日着替えたばかりのパジャマのズボンが、じっとりと濡れている。
おとといだって、おねしょしたばかりじゃない。
どうしてできないの、トイレって言えないの。
片づけるのはおかあさんなんだから、大変なんだから。
私と目が合うと、玲香がびくんと肩を震わせた。
足元で、ぴちゃぴちゃ、ちょろちょろという弱々しい水音がたち、ちいさな水たまりができあがる。
最初のコメントを投稿しよう!