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おかあさん、わらって。
そう訴える玲香をうるさいと怒鳴り付けて貼り倒し、馬乗りになって、力任せに殴りつけたのだった。
わらって、おかあさん。
うるさい、うるさいうるさい。
ねえ、わらって。
うるさい、うるさいうるさいうるさい。
お、があ、ざ……。
玲香が涙ぐみ、必死に懇願する瞳のなかに、私は確かに見たんだ。
無視をしても、わざと肩にぶつかったり、傍らで大きなため息をしても、なにも気にするそぶりはなく「お疲れ様です」とにっこり微笑む、奥野のすがたが。
だから、怒りに制御がきかなかった。
なんで普通にしていられるのよ?
びくびくもせず、にこにこして、無視をしても冷たくしてもぜんぜん平気で……。
「君は、なにが気に入らなかった?」
アクリル板ごしに、夫に問われてはっと我にかえる。
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