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「奥野さんは、君がしてきたことに対して、なにも気づかなかったそうだ。無口なかただと思っていただけで、嫌われていることも、ほうぼうで君が悪口を言いふらしていることも知らなかったそうだ」
「そ、そんなのうそよ!あいつはずる賢くて、なんやかんや目立つし、調子が狂うからみんなのために追い出した方がいいって思ったから、私は、私は……」
「そうやって、玲香にもいろいろ聞かせていたんじゃないのか?ママはいつも、奥野さんっていう人のことばかり言って、いつも怒ってる。お化けの顔になっていくって……辛そうに、泣いてた時もあったんだ。今になっては、何を言っても玲香は戻ってこないけどな」
あの日、私は玲香の頬に、胸に、腹に拳がぐにゃりとめりこむたびに、玲香の瞳にいる奥野が、だんだんと薄くなっていくさまにほっとしていた。
もっと薄くなれ、消えろ、消えろと言いながら拳を振り下ろし、ぐったりした玲香にも気がつかず、すっかり頭に血がのぼってしまっていた。
「おかあさん、わらってって……玲香は息を引き取るまで、言ってたな?覚えてるよね?」
私はだまってうなずき、ぐっとにぎった、自分の拳を見る。
あの時殴りつけた傷跡が、関節と、手の甲を赤黒く腫れさせている。
どんなに力を込めて殴りつけても、ずっと、あの子は、玲香は言っていた。
おかあさん、わらって……と。
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