酒蔵との契約

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「お待たせしました」  そう言って厨房から出てきた作務衣男が、テーブルにざる蕎麦を並べていく。待ちかねていた様子の皆の顔が、蕎麦に向いた。ユカだけは、酒蔵との契約の件で頭が一杯なのか、蕎麦には見向きもしない。  ゴンゾウは一本だけ蕎麦を箸で摘み上げると、伝えるべき感想を思案している様子だが、先程までは助言を熱心に聞いていた作務衣男が、ゴンゾウの前を通り過ぎて自分の席に着いた。ようやく作務衣男も、ゴンゾウが尊敬に値する蕎麦職人などでないことが分かったらしい。 「で、その埋蔵金の方は、どうなったんですか?」  カナモリが、クーラーバッグから勲龍を取り出しながらゴンゾウに尋ねた。試作品との飲み比べをしようとカナモリが話していたことを思い出し、僕は気が気でない。  目を輝かせるカナモリや作務衣男だったが、ゴンゾウが顔の前で手を横に振ってみせる。 「1年以上も調査を続けてたけど、結局何もみつからなかったよ」  ふとユカに目をやると、スマホを片手に何かを真剣に調べている様子だ。自分には話しかけるなというオーラが放たれている。これから始まる飲み比べの結果次第では、忙しそうなフリをしたまま、僕を残して店を出て行きかねない。その時に備え、僕もスマホを取り出して、画面に集中しているフリをしてみる。  ポンという気持ち良い音が店内に響いた。カナモリが勲龍の栓を抜いたのだ。
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