蕎麦屋

5/7
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「滝がどんな所にあるのか言ってみて」  女性の質問に、僕は答える。 「崖ですか?」  「じゃあ、断崖絶壁を見たら『あっ滝だっ!』て思うわけ?東尋坊は、でっかい滝?」  東尋坊に詳しいわけではないが、自殺の名所としても有名な場所なので、写真ぐらいは目にしたことがあった。ごつごつした岸壁が続く、日本海の観光名所だ。 「東尋坊は滝ではありませんよ」 「そんなの分かってるわよ。じゃ、華厳の滝はどうなのよ?」  「滝ですね。名前が滝だって言ってますから」 「なんで東尋坊が滝じゃないのか言ってみて」 「水が流れてませんから」 「そうよ。水が勢いよく流れ落ちてるから滝だっていうんでしょ?」 「そうですね」 「で、そこの川の水はどんな様子よ」  僕は、もう一度谷底を覗き込んで確認した。 「チョロチョロ流れてます」 「そうよね?最近の日照り続きで、川の水はいつ干上がってもおかしくない状態なの。そんな時に滝を見に行こうだなんて、どうしたら思いつくのよ」 「毎日暑いし、滝の水飛沫でも浴びれば涼しいかなと思って」  このまま夏に終わりは来ないのではないかと思うほど、ずっと暑い日が続いていた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!