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「滝がどんな所にあるのか言ってみて」
女性の質問に、僕は答える。
「崖ですか?」
「じゃあ、断崖絶壁を見たら『あっ滝だっ!』て思うわけ?東尋坊は、でっかい滝?」
東尋坊に詳しいわけではないが、自殺の名所としても有名な場所なので、写真ぐらいは目にしたことがあった。ごつごつした岸壁が続く、日本海の観光名所だ。
「東尋坊は滝ではありませんよ」
「そんなの分かってるわよ。じゃ、華厳の滝はどうなのよ?」
「滝ですね。名前が滝だって言ってますから」
「なんで東尋坊が滝じゃないのか言ってみて」
「水が流れてませんから」
「そうよ。水が勢いよく流れ落ちてるから滝だっていうんでしょ?」
「そうですね」
「で、そこの川の水はどんな様子よ」
僕は、もう一度谷底を覗き込んで確認した。
「チョロチョロ流れてます」
「そうよね?最近の日照り続きで、川の水はいつ干上がってもおかしくない状態なの。そんな時に滝を見に行こうだなんて、どうしたら思いつくのよ」
「毎日暑いし、滝の水飛沫でも浴びれば涼しいかなと思って」
このまま夏に終わりは来ないのではないかと思うほど、ずっと暑い日が続いていた。
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