ゴンゾウの父

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「飲食店やら酒の販売を始めるには、面倒くさい免許や認可が必要だろ?申請すれば、すぐに取得できるってものでもないしな。だから、取得できるまでは、しばらく目を瞑ってくれって掛け合ったらしい。今は時間の勝負なんだと言ってな」 「そんな頼みを聞き入れて貰えたんですか?」  意外そうな顔をしてみせるゴンゾウ。 「うちの親父を誰だと思ってんだ。役所じゃ、後輩の面倒見の良い先輩として名が通ってたんだ。勲龍の一升瓶を持って役所時代の同僚宅を尋ねると、大概は快く承知してくれたそうだぞ。渋る連中もいたが、いくらか握らせると掌を返すように態度を軟化させたらしい。ま、金に困って、渋ればおこぼれに与れるとでも思ったんだろう。親父は気前よく払ってやったらしいぞ。助け合いってやつだな」  明らかな贈収賄で、助け合いという言葉で片付けるには無理があったが、「時代ですね」と僕は言ってみる。昔の話をとやかく言ってもしょうがない。   「いい時代だったよ。毎月が正月かってくらい小遣いも沢山貰えたしな。店先に立って土産物を売ると、歩合で小遣いを貰えたんだ。忙しい日なんて、学校も仮病を使って休めとか言われてさ。小遣い欲しさに喜んで休んだよ。俺は勉強も嫌いだったしな」 「さっきから聞いていると、ゴンゾウさんのお父さんは、ルールに縛られない生き方をされた方だったようですね」  角の立たない言い回しが、自然に口をついて出てくることに自分自身が驚かされる。常識知らずだと憎まれ口を叩いても、誰も幸せにはならないのだ。 「そうだろ?型破りな商人だったんだよ。役所の連中の邪魔さえ入らなけりゃ、今頃は億万長者だっただろうな」
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