ゴンゾウの父

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「なるほど。役所が店を畳めと言ったのは、理不尽な話でもなさそうですね」 「お前は、他人事だからそんなことが言えるんだよ」 「認可を受けるのは、そんなに時間が掛かるものなんですか?」 「きちんと申請さえしてれば、数ヶ月で正式に認可されてた筈だ。だけど、何しろ商売が忙しくてさ。色んな手続きを後回しにしてたらしい。役所から何も言ってこないもんだから、そのまま続けてても問題ないと思ったんだろうな」  役所連中は、そこを突いてゴンゾウの父親を説得したのだそうだ。酒の卸しや道具類の販売を止めれば、蕎麦屋の営業だけは続けられるようにしてやると。 「知り合いの役所の職員が何人も押しかけて来たんだ。約束は無かったことにしてくれって言って、貰った金品も親父に突き返したりしてさ。親父は『今更なに言ってんだ』って怒鳴って追い返してたけどな」 「えーと、『助け合い』でしたっけ。お父さんは役所の人達に対して、そういう気持ちは抱かなかったんでしょうか。つまり、知り合いの職員達のお願いを素直に受け入れるって意味ですが」 「役所を辞めてまで商売を始めてたんだぞ。蕎麦屋だけじゃ食っていけるわけないじゃねぇか。勲龍を飲む客しかうちには来なかったんだから。道具類だって、山程仕入れてたんだからな」  結局、仕入れた道具類は役所が備品として買い取ったのだそうだ。土産物の販売価格のままで買い取られたので、その利益は相当なものだったらしい。それまで、ただの民家だった蕎麦屋を、現在の蕎麦屋の造りに建て替えられたのも、その時にまとまった金が入ったからなのだそうだ。
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