酒蔵との契約

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酒蔵との契約

 勲龍の販売については、ゴンゾウの父親がゴネた。もしも卸業者を辞めろと言うなら、地元の飲食店には一切勲龍を卸さないと言い出したのだ。埋蔵金の件もあって、人気が出始めていた勲龍は、地元にとっては観光の起爆剤と呼んでも良いものだった。この地を訪れた人々が飲食店に入るのは、勲龍を目当てにしていたといっても過言ではない。  これには、役所連中も困らせられた。正式な契約が結ばれている以上、口出しすることも出来ない。更に困ったのは、酒蔵の先々代だ。元々大量に生産していなかったので、観光客がこの地に流れてくるようになると、全量が地元で消費されるまでになっていた。だが、契約がある以上、ゴンゾウの父親が首を縦に振るまでは地元の飲食店で提供できなくなってしまう。  地元で販売できないとなれば、他地域に流通させざるを得なくなるし、せっかくの地元への貢献が出来なくなってしまう。地元の名士としての評判もうなぎ登りだった先々代にしてみれば、そのような事態はなんとしても避けたかった。元々、ゴンゾウの父親と契約を結んだことには後悔していたのだ。契約を結んでからというもの、近所の飲食店からはゴンゾウの父親の不手際が原因で毎日のように苦情が上がっており、それに頭を悩ませていた。
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