酒蔵との契約

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 そこで先々代は決断する。勲龍の販売契約の修正をゴンゾウの父親に申し出たのだ。それは破格と言っても良い条件だった。勲龍の販売量に応じて、ゴンゾウの父親には黙っていても手数料が入るという内容だったのだ。しかもその範囲は、地元での売上に限らないという条件まで付いていた。手数料率は、それまでゴンゾウの父親が得ていたものと同等だ。  ただし、契約には条件が付与されていた。定期的に契約更新が必要で、両者合意のもとで更新されなければ破棄されるというものだ。先々代は、数年間の出費をゴンゾウの父親との手切れ金程度に考えていた。そしてそれは、契約更新さえしなければ、実現されるはずだった。 「お父さんは、その契約修正を受け入れたんですか?」  僕がそう尋ねると、ゴンゾウは頷いた。ゴンゾウの父親は、その契約に飛び付いたのだそうだ。 「その契約のお陰で、こうやって蕎麦屋が続けられてんだからな」  ゴンゾウが言った。その声にユカが反応を示す。片手を上げて、話を続けようとするゴンゾウを制止した。 「ねぇ。もしかして、その契約は今も続いてるの?」  それまで興味なさそうに話を聞いていたユカが、問い詰めるような口調でゴンゾウに聞く。ゴンゾウは、気まずそうな顔をして頷いた。
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