酒蔵との契約

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「酒蔵も、うちの親父との契約を破棄するわけにはいかないから」  ゴンゾウがその経緯を話し始めた。ゴンゾウの父親は、契約を結ばれるとすぐに、借金までして近隣の森林の伐採権を購入したのだそうだ。埋蔵金の採掘が進められている中、近隣の山や土地の権利を手放すなどという者はいなかったが、伐採権だけを譲ってくれというゴンゾウの父親の申し出に、山林の持ち主は喜んで売り渡したのだそうだ。  安価な外国産の材木の輸入で、国内のスギ林は材木に加工しても儲けなど出ない。山林の持ち主にしてみれば、材木販売で得られるよりも高額な金額を提示するゴンゾウの父親の申し出を断る理由などなかったのだ。 「材木屋でも始めようとしたの?」  ユカの質問にゴンゾウが首を横にふる。山林の管理を続けることを条件に、酒蔵への契約継続を求めたのだそうだ。もしも契約が一方的に解約されるようなことが有れば、人工林の伐採を進めるだけだと伝えて。  酒蔵では、長年の間、敷地内にコンコンと湧き出ている井戸水を利用して酒造りを続けていた。その湧き水は、酒蔵の裏山にある木々が蓄えた雨水が、月日を掛けて滲み出しているものだ。以前は、この周辺でも林業が盛んであったので、スギを伐採すれば新たな苗木が植栽され、計画的に人工林は守られてきていた。
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