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林業が衰退してしまった近年では、事情も違う。植林してみても儲けにならないので、伐採された人工林が放置されてしまうことは少なくない。
地元にあった材木工場が廃業してしまったことで、加工コストも馬鹿高いものとなっていた。いくら治水や環境保全に貢献できるとはいえ、手間や金を掛けてまで続けるという選択肢を採る地主は多くない。
ゴンゾウの父親が権利を行使して、伐採を続けた場合、新たな植林がなされないままで放置される可能性が高かった。放置が続けば、確実に影響が現れる。湧き水の量は減るだろうし、水質も変化するだろう。元通りになるまでには、長い年月も必要となる。
つまり、ゴンゾウの父親は、酒蔵の命とも言える、水を人質に取ったのだ。
「こんな店がいつまでも続けられるなんて、どんなカラクリがあるのかと思ってたけど、そういうことだったのね」
ユカが、ニヤニヤしながらゴンゾウに話す。ゴンゾウは、あたふたしていた。知られてはいけない相手に秘密を知られてしまったという様子だ。
「ユカちゃん、勘違いしないでよ。契約してんのは、俺じゃなくて親父なんだってば」
ユカは、ゴンゾウの説明を遮るように質問を浴びせかける。
「勲龍の販売方式が変わったことで、その手数料が随分増えたんじゃないの?」
「どうなんだろう。酒蔵との契約の話は、親父が一切してくれないから」
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