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「ゴンゾウ。その契約の更新、今後の交渉は私に任せなさい。まずは現行の契約がどうなっているかを知っておきたいから、その書類を持ってきて」
ユカがせっついてみせるが、ゴンゾウは首を横に振るばかりだ。
「ユカちゃん、俺はホントに契約には関与してないんだってば」
「ねぇ、今がどんな時だか分かってるの?」
真顔で尋ねるユカに、ゴンゾウが首を傾げる。
「大チャンスを逃すかどうかの瀬戸際だって言ってるのよ」
「どういうことだよ?」
さっぱり分からないといった様子のゴンゾウに、ユカがテーブルの上の酒瓶を指差した。
「サカキが言ってたのを聞いたでしょ。私達が飲んでる試作品は、来年からは試作品じゃなくなるの。商品として販売されるのよ。しかも大量に。そんな話、あんたのお父さんは知ってるの?」
「あっ」
ゴンゾウは、ユカの顔を見つめたまま言葉を失っている。
「ただ、おかしいのよね」
そう続けるユカに皆の視線が集まった。「なにが?」そう尋ねるゴンゾウにユカが答える。
「そんな面倒な契約を結んでいる相手の店に、新商品の試飲なんて頼んだりするかしら」
確かに、新商品を販売開始する話など、わざわざサカキがゴンゾウにしてやる理由などない。山の木の伐採を盾に、契約範囲を拡大しろと要求されるかも知れないのだ。
サカキの内部事情を探ってやるから、契約は自分に任せろとしつこく迫るユカに対し、ゴンゾウは父親と合う機会を設けると約束した。
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