番外編 エピソードゼロ・森崎亨の同僚

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 これが俺と日向がバディを組んだ初めての仕事である。  それから組んだり組まなかったり、付かず離れずだが、どうにか二人共死なずにやっている。  そして今、俺は腕を組んで、仰向けになった男の逞しい胸筋が、バーベルと同じリズムで上下するのを見下ろしている。 「っあーっ」  日向は呻いてバーベルをラックに上げ、起き上がった。着ているTシャツの腹で顔の汗を押さえると、脇腹の傷が見える。何ヶ月か前、彼女のストーカーに刺された傷である。バカだろ。 「お前、もはやなんの為に鍛えてんの」  俺は鼻を鳴らした。日向の潜入先も、この七年間でめっきり一般企業が増えたというのに。  ここは組織の持っているジムで、主に格闘技の演習に使っているが、隅の方にトレーニング器具も置いている。  身体バキバキの「武闘派」ばっかり出入りしているので、俺はこんな所で鍛えるくらいなら、近所のコナミスポーツクラブに行く。今日は上の事務所に顔を出した時、日向がジムにいると聞いたので覗いただけだ。 「そんなん、奥さん喜ばせる為に決まってんじゃん」  そのままTシャツを脱ぎながら、日向はにやにやして言った。 「キモい! きんもちわるい!」  俺は喚いたが、奴が意に介した様子は無い。  まさかこの日向が結婚する日が来ようとは。  しかも、相手は潜入先で引っ掛けたごくごく普通の可愛いOLだ。仕事しろよ。  何で彼女がこいつと結婚してくれたのか、本当に謎である。羨ましくなんてない。前言撤回。羨ましい。やっぱり男は顔と身長なのか。 「飯まだ? 外行く?」 「おう」  更衣室に行きかけた日向が振り向いた。 「そういやさ、とうとう相談役になっちまったな」 「え?」  何の話が分からず俺が聞き返すと、日向は、何を言っているのか、という顔つきで 「島耕作だよ」 と言った。 「あー……」  俺は、数年前に追うのをやめてしまった、とは言い辛く、曖昧に頷いた。久しぶりにまた読んでみようか。    俺は日向の背中を見送った。傷だらけの、かつての狂犬の背中だ。  この七年間で、奴の何が変わり、何が変わらなかったのか。ずっと一緒にいたわけじゃない。俺は知らない。  日向と彼女の間にどんなに壮大な愛の物語があるのかも、知らない。知りたくもない。  それでも、この男の孤独を少しでもほどくものがこの世にあったのであれば、それは俺にとっての救いでもあるような気がするのである。 〈了〉 森崎大活躍の番外編。 ハタと思ったのですが、日向さんは本編番外編通して本業の方は全く活躍していませんが、大丈夫なんでしょうか。。。(主に女と寝てるだけ)リストラされたら美月に養ってもらってね。 あとはスター特典の更新がありますが、こちらはいったん完結とさせていただきます。ありがとうございました!
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