1.出会いは葉桜の季節

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 花見は営業二課の恒例行事だ。課長を始め、年輩社員は楽しみにしているらしい。オジサン達は外で開放的に飲めて楽しいだろう。でも準備する若手は大変なのだ。 「ケータリング、確認の電話した?」 「したよ、五時半受け取り!」  金曜日四時、乙ちゃんと私はコピー機の前で慌ただしく確かめ合った。 「美月ちゃん、五時ダッシュ出来そう?」 「ヤバいけどするしかない。月曜日は朝イチで来るよ……乙ちゃんは?」 「ペアの先輩に押し付けたから、おけ」  乙ちゃんはこういうところ要領が良くて、嫌味ではなく尊敬する。自分は要領が悪い自覚がある。  定時は六時だけど、五時きっかりに二人で退社する。私がお手洗いに行った乙ちゃんをエントランスで待っていると、 「美月ちゃん」 と声をかけられた。  顔をあげると、開発部の蓮見照生(はすみてるお)さんが立っていた。コンビニの袋を下げている。 「あ、蓮見さん、お疲れ様です!」  思わず明るい声になった。蓮見さんは私の三年先輩で、昨年末の社内の飲み会で知り合った。切れ長一重の塩顔イケメン。爽やかで、仕事熱心で、とにかく優しい。  今日もかっこいいわー……眼福。  こっそり心の中で呟く。 「お疲れ。まさかこれから外回り?」  蓮見さんは私が羽織っているトレンチコートをちらりと見た。 「いえ、花見の準備です」 「わあ、大変だね。楽しそうだけど。また今度乙ちゃんとかみんなで飲みに行こうね」 「行きましょう!」  蓮見さんがエレベーターの方に去っていくのと入れ替わりに、乙ちゃんが走ってきた。 「ごめんごめん!」 「大丈夫だよ。今蓮見さんと会ってね、またみんなで飲みに行こうって」 「え、二人で行けばぁ」  私が蓮見さんを気にしていることを知っている乙ちゃんが、にやりとする。  二人でキャイキャイ言いながら、会社を出た。四月頭にしては暖かな日で、花見日和だ。  花見は浜松町にある会社の近所の大きな公園でやるけれど、その公園は長時間の場所取り禁止のルールがあるので、逆に良い。場所取りOKだったら、午後の業務をすっ飛ばして場所取りさせられていたに違いない。  大体、最近桜のシーズンも早くなってきて、今年もピークは三月末だった。今は四月になっているので、半分葉桜なのだけど、どうせ誰も見ていない。オジサン達は飲めれば何でもいいのだ。私は、毛虫が落ちてこないかだけをひたすら心配している。 「前、外資系金融に勤めてる友達に花見の話ししたら、今時そんなことするんだーって笑われちゃった。その子のとこ、飲み会もないんだって。社員旅行もバレンタインも、プライベートに食い込む行事は一切禁止」  まだ比較的花の残っている桜の下に、ブルーシートを敷く。  乙ちゃんはミントグリーンのパンツに汚れがついていないかチェックしている。私は汚れが目立たないものと思い、ネイビーのシャツワンピースを着てきたけれど、パンツの方が良かったかもしれない。 「羨ましい。けど、ちょっと寂しいかな?」 「全く飲まないのもつまんないよね」  私達は言い合った。 「それに私が中途で入って歓迎会なしだったら、がっかりする」  乙ちゃんが言う。 「日向さんはそういうの気にしないよ、絶対。今日も面倒だと思ってんじゃない」  私はつい刺々しい口調になった。 「あ、もう嫌いなんだ」 「嫌いだよ」
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