1章

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あれからリリとルークは、毎日少しずつではあるが会話を交わすようになった。 話すようになって分かった事は、理由は未だ分からないが彼はやはり自分の容姿があまり好きでは無いという事。それから、吸血鬼用の人工血液が不味くて仕方が無いという事やその他の食事は甘い物が好きだと言う事も知ったし、辛い物や苦い物は苦手だということも知った。 クラスが違うので校舎内では、相変わらず話す機会は無いものの、最近では夕飯を一緒に食べるまでの仲になった。 「ねえ、それってそんなに不味いの?」 目の前の席に座り、夕食である人工血液パックを眉間に皺を寄せながら飲むルークを見て、思わず問い掛けた。 因みにリリは、吸血鬼ではないので血液パックは飲んだ事はない。人間と同じ様な食事しか摂らないし、リリはパンやパスタ等の炭水化物や甘い物が好物だ。 「……すげえ不味い」 「そんなに不味いなら僕のパスタ半分あげようか?こっちの方が美味しいんじゃない?」 「いやいい……パスタは嫌いじゃねえけど、基本俺らは血液でしか栄養摂れないから」 「え!そうなの?」 「ああ。だから血液以外は、個人の好みで食べたければ食べるだけ。食べなくても何の問題もないしな……まあ、でもお前が食ってるパスタ美味そうだから一口貰う」 ルークはそう言って、リリのフォークをひょいっと拝借しクリームパスタを一口頬張る。 「美味しい?」 「ん、美味い。……ありがと」 「どういたしまして。僕も、人工血液一口飲んでみたいかも。どれだけ不味いのか気になる」 いつも、彼が顰めっ面で飲んでいる人工血液の味がどんなものなのかリリは微かに気になっていた。 そもそもに、リリは吸血鬼ではないのだし、きっと美味しい等と感じる事はないのだろうと分かってはいるが、気になるものは気になってしまう。 「え、飲みたいの?」 「うん。それって、吸血鬼以外が飲んでも別に問題は無いんでしょう?」 「まあ…問題は無いと思うけど、少しにしとけよ?お前は吸血鬼じゃないんだから、余計に不味く感じるかもしれないし」 ルークの言葉に頷くと、彼が飲んでいた人工血液のパックを渡され受け取った。 ゼリー飲料が入っているような容器に入れられているそれに鼻を近づけてみたが、特に匂いは感じない。 恐る恐る一口飲んでみると、自身の想像を遥かに超えた何とも言えない味が口いっぱいに広がり、リリは涙目になりながら何とか嚥下した。 「だから言ったろ?不味いって」 「う……なんていうか、鉄の味がする」 「ははっ、鉄って。お前、鉄食べたことあるのかよ」 「いや……ないけど、鉄の味がした」 勿論、鉄など食べた事はないがそう表現する他無い味がしたのだ。美味しいだとか不味いだとか、そういう次元では表現できない味だった。 ルークは毎日これを飲んでいるのかと思うと、感心してしまう。元来、吸血鬼は血液を食事とする生き物だから、リリのように鉄の味だとは思わないのだろうけれど。 「ルークは誰かの血は飲んだりしないの?」 今までにリリが授業や本等で知り得た知識では、吸血鬼は人工血液を主に食しつつ、時折誰かに血を分けてもらったりする事もあるようだった。 それは、一度きりの相手もいたり、パートナーであったり。様々であるらしいが、彼が人工血液以外を飲んでいるのを見た事はない。 もしかしたら、リリの見えない範囲で行っているのかもしれないが。 口直しで水をぐびぐびと飲んでいると、ルークが目をやや伏せながら口を開く。 「まあ、誰かに血をもらって飲んでる奴は多いと思うけど……俺はコレ以外飲んでない」 「どうして?」 「……誰かに甘えるのも迷惑かけるのも嫌だし…。それに、たまたま貰った血が自分にとって凄く美味い血だったとして、もしかしたら自制が効かなくなって飲み干して殺しちまうかもしれないだろ?」 ルークの言葉を聞いて、リリは正直驚いてしまった。それと同時に、彼は少しだけ臆病者でとても優しい人なのだなとも思った。 自制が効かなくなってしまって飲み干して殺してしまった――という事件は、確かに実際過去に数件起きた事があるようだった。 だが、殆どはそんな事にはならないし、過去にあったその事件もリリ達が生まれる大分前の話だ。だから、そんなに心配しなくてもいいのではないかとリリは思う。 現に彼も言っていた通り、誰かに血をもらっている吸血鬼も多いという話を聞く。だったら、ルークだって好きにしたらいいのに。 毎日我慢して不味いものだけを飲むだなんて、きっと辛い。 「ルーク。君さえよければ、僕の血を飲んでみない?」 「……は?お前、俺の話聞いてた?」 「うん。聞いてたよ?でも僕は、ルークが毎日不味い人工血液を飲んで辛そうなのも知っているし、わからないけどきっとソレよりも本物の血液の方が栄養だってあるんじゃないの?だったら僕のを飲めばいいと思って」 「……馬鹿なこと言うなよ」 ルークは困った様な表情をしつつ、珍しく狼狽えているようだった。 リリは、ただルークの力になりたいだけ。落ちこぼれの自分でもいいならば、力になりたい。 「知ってるかもしれないけど、僕って昔から本当に落ちこぼれでさ。魔法使いなのに、うまく魔法も使いこなせなくてマダムエリーゼ達に怒らればっかりで」 「……」 「ルルとは双子だけど、出来が違うからいつも比べられてばっかりでさ。ルルは優しいし、驕るような人でもないし大好きな存在だけど、やっぱり僕は心のどこかで蟠りのようなものは少しだけあって」 「……」 「えっと、何が言いたいかっていうとね?こんな落ちこぼれの僕でも役に立てることがあるなら嬉しいんだ。勿論、無理矢理に押し付けるつもりはないし、ルークの気持ち次第だけど。よかったら僕の血飲んでみてよ。もし、美味しいのなら定期的に飲んでくれて構わないし、不味いなら一度きりで止めていいしさ」 これはリリの勝手な提案なのだし、決めるのはルークだ。 リリ自身、自分の血がどういう味なのか、美味しいのか不味いのか全く分からないので味の保証はできない。 けれど、もし自分の血が彼にとって美味しいと思ってもらえる代物ならば嬉しいなと思った。
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