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プロローグ
「リリ・ステルガルト!!あなた、このままじゃ本当に留年するわよ!!」
四角い格子付きの窓から光が差し込み、中庭の大きな木々の木漏れ日が心地良い昼下がり。
リリ・ステルガルトは、学年主任のマダムエリーゼから指導を受けていた。
多くの生徒が行き交う廊下の中腹で怒られる事ほど恥ずかしい事はない。
リリは羞恥心で俯きながらマダムエリーゼの有り難いお言葉に小さく頷く。
「ただでさえ、あなたはΩというハンデがあるのよ?きちんと自覚して精進するように。次のテストは期待していますからね!!」
そんな捨て台詞と共に、赤色の高いヒールをカツカツと鳴らし、大ぶりの宝石が付いたピアスを揺らしながら去っていくマダムエリーゼの背中を見て思わず溜息がもれた。
……いつもこれだ。
『Ωというハンデ』―――ハンデと言われたって、自分にはどうする事もできないのに。
リリは、また溜息を吐く。魔法使いであるのに、まともに魔法を使いこなせずにいる落ちこぼれの自分。そして、その性質から忌み嫌われるΩである自分にほとほと嫌気が差す。
リリ自身、できる事なら有能な魔法使いに生まれたかったし、Ωなんかではなくαやβに生まれたかった。
けれど、今更嘆いてもどうしようもない事も分かっている為に、やりきれなさを抱えながら生きている。
いつも魔法学は学年最下位に近い成績を維持していて、他の教科の成績は並。残念ながらΩは身体能力も低い為、運動は並以下。
そんなリリは、いつもマダムエリーゼや他の教師達に怒られてしまう。
リリなりに頑張っているつもりだが、未だかつてその努力が報われた事はなかった。
唯一の救いは、リリが落ちこぼれの魔法使いのΩだと知っている上で仲良くしてくれる友人がいる事と、才に秀でた双子の兄がいる事だった。
友人は、ライカンのβだがいつもリリを心配してくれて優しく接してくれる大切な存在。
双子の兄はリリと同じ魔法使いだが、リリとは違い才能がある上にαで、入学以来学年一位を保持している。
「双子なのに、なんでこんなにも違うんだろう……」
廊下で佇むリリを皆が遠巻きに見る中、ポツリと呟いた言葉は空気に消えて無くなっていった。
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