一.

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一.

「お願い!死なないで!」 マンションの一室、ドアホンに応答は無く玄関を開けると、奥から女性の悲痛な叫び声が響いてきた。 「駄目!生きて!死なないで!こんなの、こんなこと!駄目よ!」 我々は急ぎ廊下を進み、突き当りに見えるリビングの手前、夫婦の寝室とおぼしき部屋へと駆け込む。 「谷井さんですか!?通報したのもあなたでよろしいですね!?警察です!間もなく救急も到着致しますのでどうか落ち着いて!」 二台のベッドが並ぶのみの部屋。 その片方のベッドの上には、座り込み叫び続ける女性と、女性の前に横たわる男性、そして女性の腕の中には、目も口も半開きのまま力なくもたれかかる小さな女児の姿があった。 「死なないで!死んじゃ駄目!」 女性は半狂乱の様相で男性に呼びかけ続ける。 「谷井さん!警察です!どうなさったんですか?状況をお教え頂けますか?」 問いかけながら、辿り着いたベッドの脇に(ひざ)をついた。 「お願いします!早くして下さい!まだ生きてます!まだ間に合うはずです!間に合わせて下さい!どうか夫を……夫を死なせないで下さい!」 女性は目の前でぐったりと仰向(あおむ)けに身を投げ出している、首に縄を巻き付け意識不明の男性を示しながら答えた。 背後では、残る各部屋にも捜査の足音が入っていく気配がしたが、他に人が発見されたような動きは無い。 意識不明の男性と女児に対し、一人無傷のこの女性は、果たして単なる発見者か、それともこの女性が、(ある)いは被疑者か。
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