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二.
「救急車はまだ来ませんか!?警察より先に呼んだのに!早くして下さい!夫を!」
こちらを振り返りもせず叫ぶ女性の装いは、男性と女児の部屋着姿に対し、仕事着らしき衣服を身に着けており、化粧も落としていない。
手には数枚の紙を握りしめている。
「死なないで!警察の方でも構いません!夫を死なせないような蘇生とかして頂けないんですか!?早く!お願いします!」
それにしても、発見者にせよ被疑者にせよ、言葉や態度には何か違和感がある。
詳しい話を聞き出そうと口を開きかけたが、
「救急、到着しました!」
「搬送は成人男性と女児の二名でよろしいですか!」
背後から駆け込むせわしない声に遮られた。
「お願いします!早く!早くして下さい!まだ生きてるんです!」
救急隊員に懇願する女性、それをなだめながら一人の隊員が、女性の腕の中に固く抱きしめられている女児に向かって手を差し伸べると、
「夫を!夫も、早くして下さい!」
女性はさらに強く女児を抱きしめながら言う。
「大丈夫です!落ち着いて!二人とも助かるように最善を尽くしますから!さ、娘さんをこちらへ!」
何度も呼びかけられ、やっと、ゆっくりと、女性は腕の力を緩め始めた。
隊員は女児を委ねられ担架に乗せるが、一瞬、険しい表情が浮かんだ。
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