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「これで君は立派なペペロンチーノ・ボーイとなった。胸を張りたまえ」
「何だよペペロンチーノ・ボーイって。こんなに嬉しくない称号は初めてだよ」
「いつか大切な人ができたらご馳走してやるといい。ニンニクの香りがふたりの心を繋ぐ架け橋となるだろう」
「随分と嫌な架け橋だね」
「それでは、我輩はここらで失礼する。機会があればまた会おう」
「おう。次はもう少し静かにしてくれるとありがたいね」
「善処する」
男は適当に手を振る。鯉は深く潜って姿を消してしまった、と思えば池の水位がみるみる減っていく。浮いていた水草もゆらりと絵の具のように溶けてしまった。
これはきっと夢なのだ。それもとびきり変な夢。
一分ほど経つと底が元に戻り、いつもの洗面台が姿を見せる。最後に小さい渦を描き、ちろちろと水が流れていく様を、男はぼんやりしながら最後まで見送った。
「まったく、俺もいよいよ疲れてるみたいだ」
男は苦笑いしながら洗い物を済ませ、ゴミを外に捨て、戻るとソファに寝転んで目を閉じた。部屋は衣服や何やらで散らかっている。目が覚めたら、ちょっとだけ綺麗にしてみようと思った。
未だ部屋に蔓延るニンニクの香りに包まれながら、男は眠りについた。
これほど熟睡できたのは本当に久しぶりだった。
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