ペペロンチーノ・デイドリーム

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 外はげんなりするほどに暑かった。のぼせた頭でどこかぼうっとしながら言う。 「ほらよ、買ってきたぜ。パスタ、オリーブオイル、ニンニク、鷹の爪。これだけ揃ってりゃ大丈夫だろう。備えは万全ってやつだ」  ビニール袋から食材を取り出して見せつける。使い切りサイズがあって助かった。鯉は満足そうに頷き、嬉しそうに尾ビレを振って波を立てた。「ちゃぷん」という音が存外涼やかだった。  やれやれ、こんなちゃんとしたパスタなんて初めて作るぜ。なにせいつもはスパゲティを茹でた上に市販のソースをかけるだけだものな。  男は肩をすくめながら手を洗い、片手鍋を取り出した。その瞬間洗面台から待ったの声がかかる。 「君、まさか片手鍋を使うつもりじゃないだろうね」  茹でるんだからそりゃそうだろう。男は眉間にしわをよせる。 「駄目なの?」 「駄目だ駄目だ。そんな狭い水槽の中にパスタを泳がせるつもりか。君がパスタの立場だったらどう思う。狭い風呂と広い風呂どちらがいい? 広々としたところで足を伸ばしたくはないのかね。抑圧された息苦しい環境の中で、どうして力を発揮できようか」 「注文の多い魚だなあ」  どうやってこちらの状況を把握しているのだろう。男は渋々両手鍋を取り出す。カレーを作る時ぐらいしか使わないので随分棚の奥にしまってあった。鯉の注文通りたっぷりの水を入れる。そこに塩を大さじ一杯加えた。  再び待ったの声が飛ばされ、ぎくりとして振り返る。
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