ペペロンチーノ・デイドリーム

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「君、まずは芽を取り除きたまえ! そうして潰してから刻むんだ。一度潰されることによって底力が滲み出るのだよ。人間と同じことさ」  この野郎、いちいちうるさいな。鱗を剥いで三枚下ろしにしてやろうか。冷蔵庫には味噌もあったな。メニューを鯉こくに変更したっていいんだぞ。まあ魚なんて捌けねえけど。  男は舌打ちをしながらその通りにする。焦げやすい芽を丁寧に取り除き、包丁の側面で潰して刻む。ニンニクのいい匂いが浮き上がってきた。フライパンにオリーブオイルを注ぎ、それらを投入する。そうして火を点けた。 「君ッ! まさかとは思うが、強火にしているんじゃないだろうな!? まだパスタも茹でてない頃からそんなことをしてどうする! 茹だる頃には黒焦げの苦いニンニクができあがっちまうぞ! こちとら黒焼きを食べるほど老いちゃいないんだ!」 「うるさいなあ、ちょっと苦い方が深みも出るだろ」  適当な理屈をこねた口答えに鯉は激昂した。ブチッと血管が千切れる音が聞こえたようだった。わなわなと口を震わせ、狭い洗面器の中を荒れ狂いながら吠える。 「知った口を利くな青二才が! さてはやるべきことを何でも後回しにしてしまう口だろう! ニンニクの香りは脂溶性だ、丁寧に丁寧に弱火で香りを油に溶かすんだ! ニンニクすら大事にできない奴が誰かを大事にできると思うなよッ! このあんぽんたん! 感性カラカラ畳鰯(たたみいわし)野郎! 少しでも焦がせば打ち首の刑だと思えッ! バンバルオオォウ、バンバルオオォウッ!」
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