ペペロンチーノ・デイドリーム

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 窓ガラスを破壊しそうな怒号が部屋中に響き渡る。洗面台の水面がもみくちゃになったように荒れる。  なんて声量だ。人が殺される寸前になったってこんな声は出さねえぞ。  まるで巨人の赤ん坊の癇癪のようなその強烈さに、男は慌てて両耳を閉じながら答える。この鯉はとんでもない激情家だ。 「ああ、分かったよ! 分かったからそんなに怒んないでよ。こちとら初めて作るんだからさ。多少寛大なお心で見てくんねえと」 「む、確かにそれもそうだな。いやはや失礼した」  鯉はけろりとして言った。まったくもう、何だってんだよ。自制心があるんだかないんだか、まるで地雷原を歩いてるみたいだ、キレるポイントが全然分かんねえや。免許合宿のおっさんの方がまだマシだったぜ。  男はどこかへ消え去ってしまいたい気持ちになりながら、弱火でそれらを加熱する。食欲を刺激する香ばしい香りが色付いて部屋に広がった。その香りで弁が壊れたかのように猛烈な空腹感を抱く。  沸騰した湯にスパゲティを入れ、吹きこぼれ防止のオリーブオイルを少し垂らす。こうすると差し水が必要なくなるそうだ。  かき混ぜながら仕上がりを待つ。鯉は柔らかめがいいと言っていたので、一分だけ長く茹でることにした。
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