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「待てッ! 火を点けたままどうするつもりだ! ジュウジュウ焼かれて表面がばさばさになってしまうだろう! 我々は焼きそばを作っているんじゃないんだぞ! そんなものは海の家のガキにでも作らせておけ! ああ!? 一皿500円になりますゥ、ご一緒にビールはどうですかってか! 我輩は日本酒しか飲まんッ!」
「ひー、怖い怖い。最後に至っては俺関係ねえじゃん」
もはや背後の魚の機嫌など気にしない。鯉のお叱りにも慣れてきた男はフライパンの火を消し、スパゲティを移してよく混ぜ合わせた。いかにも美味そうな仕上がりだ。
そうして完成したペペロンチーノを皿に盛り付ける。もうもうと湯気が立ち、香りを嗅ぐだけで唾が湧く。これほど自分の作ったパスタに期待できるのは初めてだ。
「おお、おお! よくやった! なかなか美味そうじゃないか!」
鯉はきゃっきゃとはしゃぎながら大口を開く。男は箸で麺を掴み、その口にそっと入れてやった。
それを口にした瞬間、鯉はぴたりと停止した。おやと男が訝しむ前に、落雷のような速度で潜水し、噴火のような勢いで飛び上がった。歓喜の雄叫びを上げる。
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