ペペロンチーノ・デイドリーム

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「美味――いッ! ああ、美味い美味い! ペペロンチーノってのはこうでなければッ!」  何度も飛び上がったせいで水が容赦なく飛び散った。男は腰を濡らしながらも乾いた笑いを浮かべる。そこまですごいリアクションを取るとは思わなかった。これほど喜んでもらえれば、この魚の手足となって働いた甲斐があるというものだ。せっかくなので自分の分も食べてみる。 「お、美味い! 店のパスタみたいだ」 「当然だ! この我輩が監修したのだからなッ! そこらの店にだって負けはせんよ! 一皿550円で売ろうじゃないか、きっと繁盛するぞ! ムフフ」 「割と良心的な価格だね」  麺の口当たりが非常に心地いい。普通に茹でただけではこんな仕上がりにならないはずだ。塩をたくさん使ったせいだろうか、まるでお店で出てくるようなもっちり感だ。  確かにあの濃度の塩水で茹でたおかげか、塩味が全体に馴染んでいる。ニンニクの風味が舌の上で炸裂する。ぴりっと辛いオイルのとろみもいい塩梅だ。肉や魚を使っていないのに、これほどの旨味が出せるとは。  男は自分がこんなクオリティのパスタを作ったことに驚きながらも再び鯉に食べさせてやる。鯉は夢中になって平らげた。男も同様だった。
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