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この家に遺影が七枚。曾祖父母、祖父母、独身だった大叔父、両親。
この遺影が飾ってある仏間で、俺はいつも本を読んでいる。
本好きだった祖父と父の蔵書から一冊を選んで、仏間の畳の上で寝転んで読む。それが至福の時間だ。
以前はどちらかというとアウトドア派でスポーツをするのが好きだった。それが毎日部屋に籠もって、すっかり読書家になった。
両親が相次いで亡くなってからだろう。めっきり人付き合いしなくなったのは。
引きこもりと言う人がいるかもしれない。
でも、こういう生活も悪くないと思う。
今日は何の本を読もうか。
父がセット買いして、ケースに入ったままのプルースト『失われた時を求めて』全巻。
きれいなまま。手も付けてないようだ。
これにしよう。当分の間、楽しめる。
外の空気を吸いに、庭に出てみると、人の声がする。
「ほんと、この家、暗くて薄気味悪いわ」
「そうね。家も庭も広いから、物騒だし」
悪かったな。これだから、近所のおばさん達が苦手なんだ。
築百年近いボロ家だけど、昔は立派なお屋敷だったんだぞ。
まあ、遺影が多い家だから、そう言われても仕方ないか。
物騒って言うけど、俺がいるじゃないか。いまいち存在感ないけど。
気分直しに、続きを読むとするか。
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