遺影の家

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 今日は、トオルの家に遊びに行く。  トオルは幼稚園からの幼なじみ。高校、大学は別だったけど、大人になってから、またよく会うようになった。  近所だから、歩いていける。 「やあ、アキラ。入って」  2階から声がする。 「お邪魔します」 「こちらにどうぞ」 「おや、トオルの部屋、キレイに片づいてるな」 「そうかねえ」 「ところで最近調子はどう?」 「まあまあかな。アキラは?」 「俺も同じく。最近何してるの?」 「ラジオを聴くようになったよ」 「へー。ラジオを触ったこともなかったのに」 「それが結構おもしろくて。やっぱり、音楽系の番組がいいね」 「トオルは昔バンドやってたからな」  トオルは母親が亡くなってからは家事をするようになって、バンドからすっかり遠ざかってしまった。 「お父さん、元気になった?」 「それが、お酒ばかり飲んで、聞く耳持たないんだ。アル中にならなければいいけど」 「そうか…。それは心配だな」 「アキラは?」 「俺は相変わらず読書三昧よ」 「アキラの家、本が多くて図書館みたいだって? 何冊あるの?」 「数えたことないけど、数千冊はあるんじゃないかな」 「えー、それはすごい。今度僕にも見せて」 「ああ、いいよ」 「ほんと? 今度行くよ」 「いつでもいいよ」  トオルとのおしゃべりは楽しい。あっという間に時間が過ぎる。 「あれ? もうこんな時間だ。最近だんだん日が短くなってきたから、もうそろそろおいとまするよ」 「じゃあ、またな」  帰り道、必ず猫に会う。  この辺りは何匹もの野良猫が住みついているから。  かわいいんだけど、近づくとすぐに逃げちゃうんだよね。  一度でいいから、撫でてみたいんだ。  今日は、三毛猫。  今日も、叶えられなかった。
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