遺影の家

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 「こんにちは、お邪魔します」  「上がって」  今日はトオルが家に遊びに来た。  「いつもながら、この家は涼しいね」  「木陰だからね。本はこちらの部屋だよ」  長い廊下を通って案内する。大きな洋室の扉を開ける。  「わー、壁全面、本だらけ。すごい」  「まあ、じっくり見てってよ」  「階段がある。2階造りになってるんだ。ほんとにすごいな」  俺もまだ開いてもない本が山程ある。  本の背表紙をずらっと見て、良さげなら手に取ってみる。  トオルも同じことをしている。  「これ、夏目漱石の初版本じゃない?」  「どれどれ。ほんとだ。貴重だよ、きっと」  「いろんな所に宝物が隠れてそうだね」  トオルの顔がほころぶ。  トオルはどうやら最初の一冊が決まったようだ。  「椅子、ここにあるから」  「これまたアンテイークな。早速座って本を読ませてもらうよ」  俺も椅子に座って、午後の読書を始める。  天井窓から、日の光が射し込んでいる。  贅沢な時間が流れていた。  「アキラ、楽しかったよ。今日はこの辺で」  「本、借りてってもいいんだぜ」  「この部屋で読む方が雰囲気あっていいよ」  「そうか。いつでも読みに来てくれよ」  「うん、ありがとう。じゃあまたね」  トオルは足取り軽く帰って行った。  それからトオルは足繁くここに通うようになった。  俺達は贅沢な時間を共有していた。
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