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うさぎさん
うさぎさん
君のふたつのルビィ
とても綺麗 下さい
うさぎさん
うさぎさん
僕に君の光を
わけ与えて下さい
最近 私の病室に来るようになった子猫さん
彼は 目が見えない
病院散策の時 偶然 私のもとに辿り着いたらしく
どんな色の瞳かと聞かれ 答えたあとからいつもこう……
子猫さん
子猫さん
交換だったらいいですよ
うさぎさん
うさぎさん
僕の日記見せます
君のルビィ下さい
子猫さん
子猫さん
私にとって瞳は
なくてはならないものだよ
日記と交換出来ないよ
うさぎさん
うさぎさん
僕にとって日記は
命そのものなんだ
僕にとって尊い
宝物なんだよ
子猫さん
子猫さん
あなたにとって私の
生きるためのカケラは
それと等価なのかな?
そうです
そうです うさぎさん
僕にとって日記は
とても大事なもの
うさぎさんは子猫さんの情熱に負け 片目をあげました
子猫さんはうさぎさんに 日記をあげて言いました
恥ずかしいからあとで
僕が消えたら読んで
子猫さんが去ると
うさぎさんはそっと子猫さんの日記を開いてみました
そこにつづられていたのは
子猫さんのうさぎさんを想う気持ちでした
うさぎさんが好きだよ
だから全部あげるよ
僕の心はすべて
あなたのものなんだよ
僕らは同じ瞳で
これから共に生きて
幸せになりましょう
うさぎさんは笑いました
これはとても尊い……
その翌朝
うさぎさんは決意しました
ずっと嫌がって拒絶していた
心臓の手術をすることにしました
子猫さんと出逢わなければ
残された短い命を生きるだけでした
子猫さんが待っている
うさぎさんは思いました
成功しても失敗しても
幸せだと思いました
生涯で初めて
愛されたからです
ベッドに子猫さんへの手紙を置いて 手術室へ
ゆっくりと目を閉じました
そして夢を見ました
ずっと子猫さんといる夢です
幸せです
とても幸せです
あなたが愛してくれたから……
私は生きてこれました
もしも死んでしまったら 子猫さんは泣くのかな?
あなたの為に生きたい
次の朝は訪れました
傍らには うさぎさんの隣で疲れたように手を握って眠る子猫さんがいました
ありがとう
勇気をくれて ありがとう
うさぎさんは子猫さんが握っている手紙を見て笑いました
これから ずっと隣で
あなたと生きてゆきます
笑いながら 夢から覚めました
そこには子猫さんはいません
病室で眠っていたうさぎさんは
いつの間にか握っていた手紙に気づきました
子猫さんはきっと照れているから来ないんです
嬉しくて 思わずはにかんでしまいます
そっと手紙を開きました
そこには
僕達は同じものを見て感じて 生きていくんだ
そう書かれていました
なぜかわかりません
ひとつ ふたつと感情がこぼれ落ちました
涙が止まりません
(ずっと一緒だよ)
子猫さんの声がしました
どこ?
(ずっと君の傍にいるよ)
私は駆けて
駆けて駆けて駆けて駆けて……
心臓が破裂しそうなほど熱くて苦しいです
子猫さんはどこですか?
よく頑張ったね と先生が笑いました
子猫さんなら 君と一緒だよ
私は気づきました
私が貰ったものは日記などではありません
彼の命だと……
子猫さんは以前 杖を失くして困っていた時
君に手を差し伸べて貰ったのだそうだ
そして君から 片目も……
私は後悔しました
優しくしたこと
出会ったこと
残されたこと……
ごめんなさい
だけど日記があるから
日記を見る度に思います
ありがとう
ごめん ありがとう……
私は
今も生きています
子猫さんとわけあった瞳で
子猫さんから貰った心臓で
宝物になった日記に負けないくらいの笑顔で
end
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