田園

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あぜ道に、白馬があらわれた。 王子様は乗っていない。 オムカエニキマシタ、と白馬は言った。 えらく重低音の効いた声だ。 もわっとこもっていて、よくは聞き取れなかったが、 確かにそう言った。 オムカエニキマシタ。 ばばこは、ぎょっとした。 なにしろ、 ばばこは、 「お迎え」などと言われれば ときめくよりは、ぎょっとする程度には老婦人である。 が、気を取りなおして怒鳴った。 なんやてぇ お迎えやてえぇ? 王子様わぃ われぃ? 極度の緊張で生まれてこのかた使ったこともない河内弁になった。 白馬は、黙って、そっと膝を折る。 そして背中を低くして、優しげに目を閉じた。 彼方、 微かに遠雷が響いたかと思うと、 とつぜん、二人、いや、一人と一頭の上に降り注いだのは、 玉置浩二の「田園」であった。 吸い寄せられるように白馬の背に乗ったばばこが、 その後、 何処へ行ったのかは誰も知らない。 (おわり)
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