1stチャレンジ

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1stチャレンジ

 俺が天使という存在であり、「死者のお迎え」を生業にしていることは、この物語の設定として決められていることである。これはもう変わりようのない事実であり、そういう設定のもと俺の存在はかたちを保っていることになる。  もちろん今日も俺はこれから死ぬ予定の魂を迎えにいかなければならないのだが、正直なところ憂鬱で仕方がない。なぜならここのところ、無事に仕事を完了できたためしがないからだ。  その原因はこの世界の神、つまりはこの作品の作者にある。あろうことか、奴は俺が魂を回収する前に、あるときは煙草を吸いに行き、あるときは配信者の生放送があるからとパソコンを閉じ、またあるときは買ったばかりの漫画に気がいってしまうのだ。いまこの瞬間も奴がどのタイミングで煙草を吸おうかと思案しているのが俺にはわかる。  一日に死ぬ予定の魂は全部で十五万ほど。天使というのは、ストレス解消に一日一匹壁にたたきつけても有り余るほどいるもんだから、俺の担当はせいぜい二、三といったところだ。ところが怠慢な作者が仕事の描写を面倒がるせいで、俺の成績は万年最下層を彷徨っている。  さて、今日の俺の担当は二人。片方は交通事故、もう片方は老衰だ。何万といる天使のなかで一位を取りたいなんて贅沢なことは言わない。小説家というのは自身の見解の範疇を超えたものを描写できないと言うが、人間としてこの世界に住む作者が最上位天使の仕事ぶりなど知っているわけもないのだから、奴が俺を優秀な天使として描写することは難しいだろう。だから俺は、せめて与えられただけの仕事をこなさせてほしいのだ。  今日こそは、とにかく一人でもいいから魂をお迎えしたい。そんな思いを抱え、俺は人間界へ降り立ったのだった――。
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