「キス、してもいいですか?」

2/20
351人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
「桐島さん、俺が」 頭上から声がしたかと思うと、持ち上げていたキャリーバッグがフワリと軽くなった。 「ありがとう」 「なんか旅行みたいじゃないですか?新婚旅行」 「バカ言わないの。仕事なんだから」 隣に座った中西くんを一瞥し、すぐに窓の景色に視線を移した。 列車は滑らかに発車し、定期的なリズムが揺れ動く心を落ち着かせてくれる。 まさか中西くんと二泊三日の出張だなんて__。 そしてその間に、三谷さんとの事も答えを出さなくてはいけない。 とにかく冷静に見極める必要がある。 冷静に__。 「桐島さん?」 グイっと、中西くんが私を覗き込んでいる。 その距離10cm。 「な、なによ⁉︎」 「考えごとですか?」 「ちょっと仕事のことで__」 「俺と目、合わさない気しますけど?」 「そんなことないわよ。目を合わさない理由なんてないじゃない」 ははは、と乾いた笑いで切り抜けるも、目を合わせられない理由でいっぱいだ。 山中さんの打ち明け話に、年下とのハードルが低くなったというか、近くなったのは確かだ。あの山中さんが絶対的に「年下」を勧めるんだもの。 その魅力も解析しないと__。 「はい、これ」 ポンっと、膝に置かれた四角い包み。 「まさかこれ?」 「弁当です。実は、桐島さんと出張だって聞いてたんで、驚かそうと思って作ってきたんです」 「いや、でも私、さっきコーヒーを__」 「飯、食ってないですよね?だからボーッとしてるんですよ。がっつり食べて仕事しましょう‼︎」 と、自分の包みを解き出した。 つられるようにして、私もお弁当の蓋を開け__。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!