「実は俺___不治の病なんです」

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もう私は若くない。 年下の男にしがみつき、泣いて引き止めるなんて芸当ができるはずもなく。かといって、顔が見たくないからという理由だけで仕事を辞めない、理性は保っている。 悲しいかな、それが三十路女。 だって食べてかないといけない。 生きていかないといけない。 恋が破れようが夢が破れようが、振られた男と毎日のように顔を合わせようが、私は生きていかないと。 「転職かぁ」 呟いてみただけで、そのスキルもない。ホテル業界に身を置いて6年。元々がアパレルからの転職組だ。洋服を扱うより、お客様が心から寛げる空間を創り上げるこの仕事に誇りを持っている。 それならせめて、よそのホテルに__。 いや、そもそもなんで私が? シッポ丸めて逃げるみたいじゃないの。職場恋愛において、女は圧倒的に不利だ。勝ったにしろ負けたにしろ。 段々、腹が立ってきた。三十路ナメんなって話。イビって辞めさせてやろうか?まで思考が追い詰められた時、支配人に呼ばれていることを思い出した。 「ダメダメ。怒るとシワが増える」 にっこり微笑んでから支配人の元へ行く。あぁ、いっそ転勤にでもならないかなぁ、なんて淡い期待を込めて。 でも私はまだこのホテルに来て一年にも満たない。我が「一交ホテル」はほぼ駅前に建設されている、出張族のオアシス。ビジネスホテルにあれど、そのサービスはビジネスの域を飛び越えていると評判だ。 社員は3年ないし、早くても2年で転勤になる。でも私が知る限り、1年で異動になることはない__。
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