「実は俺___不治の病なんです」

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「弐勢神宮に一交が出来るのは知ってるね?」 「はい、式年遷宮に合わせて来月オープンですよね」 ホテル業界ではかなり話題になっている。 20年に一度、神宮のお祭りが行われるその地に、一交ホテルが殴り込みをかける。世間の注目が集まる「一交弐勢神宮店」は今、準備に追われているだろう。 「支配人は三谷さんだ。君も良く知ってるだろう」 「三谷さんですか?懐かしい!」 私にホテルマンの心得を叩き込んでくれた、優しい上司だ。 思わず顔が綻んでしまうというもの。 「その三谷さんからのご指名だ」 「えっ?」 「うちもリーダーの君に抜けられるのはかなりの痛手なんだが、これは栄転でもあるから。三谷さんたっての希望だしね」 「それってまさか__私がですか?」 うそー⁉︎なんて意外な感じで驚いてみせて、心の中ではガッツポーズ‼︎ それが出来るのが、三十路の強み。 由緒正しい弐勢の地で働けること、そしてまた三谷さんの元で働けること__ううん、それは建前中の建前。 1番は、私を振った、振りやがったあいつの顔を見なくていいっていうこと‼︎ それに尽きる‼︎ 神様はまだ私を見捨ててなかったのね?それなら、なんでこっぴどく振られたのかは気になるが、心機一転、なにもかも忘れてガンバろう‼︎ 「男なんてもう懲り懲り‼︎」 なんて支配人の目の前で高らかに叫ぶことなく、引き継ぎの話なんかを聞いていた。 もうすぐにでも飛び立てるようだ。 「ああ、そうだ。言い忘れてた」 「もう驚きませんよ?」 と、余裕をかましていたが、次の瞬間、叫ぶこととなる。
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