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ここは弐勢神宮。
由緒ある歴史が積み重ねられてきた奇跡。杉の木一つとっても、冷んやりとした触り心地の奥から、温もりを感じることができる。
空気も澄み渡っていて、私は思いっきり吸い込んだ。
ホテルに向かう前に、お参りがてらやってきた。
そこここで式年遷宮の準備が行われており、この地で働くことの意義を胸に抱く。
今日から新天地に赴くことになった。
送別会もままならず、なにかと言葉を掛けてくる恋人を振り切って__いや、元恋人か。思い出したくもない。
平日にもかかわらず、参拝者で賑わっている中、手を合わせてお祈りする。
__仕事、ガンバります。見守っていて下さい。
余計なことは願わない。神様はいつも見ていてくれている。欲を出せばロクなことはない。
けれど__。
少しくらい願っても罰は当たらないわよね?罰ならついこの間、フラれたもの。だから代わりに__。
弐勢神宮には、いくつもの神様が祀られていて、もちろん恋を成就してくれる神様もいらっしゃる。
そりゃ、私は仕事に生きるって決めたわよ。でも新しい環境だからこそ、こう、素敵な出会いを期待してもいいでしょ?いいわよね?
「ここだ、ここ」
その小さな祠に向かって石段を上がる。
__背中が見えた。
コートの襟を立て、深々と祈っている男性。その後ろ姿からでも、その真剣味が伝わってくる。隣に躍り出て手を合わせるのも憚(はばか)れる感じだ。
結婚詐欺にでも遭ったのだろうか?
長い。お祈りが長過ぎる。
でも一見、神頼みなど必要ないくらい垢抜けているが?
どちらにせよ、私の嫌いな年下男子に違いない。
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