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まだ参拝している。
私より一回りは下かもしれない。
軽く咳払いをして急かしてみたが、聞こえないくらい自分の世界に入り込んでいる。
なんだか馬鹿らしくなってきた。
神に頼んで男が降ってくるなら世話はない。やっぱり私は仕事に打ち込めって、そう神様が言っている。
未だに動こうとしない背中に手を振り、石畳の階段を降りるのに向きを変えようと__。
突然、その背中が振り返る。
「キャッ‼︎」
バランスを崩して、体がよろける。
落ちる__階段から転げ落ちてしまう‼︎
そう頭で分かっているのに、どうしようもない。体が宙に放り出されるのを、私はただ遠くから見ているようで。
時間にしてわずか5秒ほど。
グイっと手を引っ張られ、気づいた時にはもう___生身の温もりの上に乗っかかっていた。
地面に叩きつけられるとばかり思っていたのに、どうして?
「痛っ__こりゃ、女の嫉妬だな」
「えっ?」
声が真下から聞こえてきたので、慌てて飛び退いた。
地面に大の字に広がるコート。
年下男子が転がっている。
おそらく、私の代わりに。
「あの、ごめんなさい」
私は手を差し出した。
私の手を握りながら、引き起こす。年下男子の力は強くて、またその胸に飛び込んでしまわないよう、踏ん張る
のに一苦労だ。
コートの汚れを払いながら立ち上がった年下男子は__。
ん?
なに?
何か私の顔についてる?
それとも__どこかで会ったことが?
「恋の女神様が、君に嫉妬したんだ」
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