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愚連隊は四人だった。
「おう、特攻隊。手足の一本ぐらいもがれる覚悟は出来てるんだろうな」
「おう特攻隊おう特攻隊と馬鹿のひとつおぼえみたいに呼びかけるのはやめて欲しいものだな。別に俺も好き好んで特攻隊などに志願したわけではないのだ」
「こりゃあ! おのれのような者が得意気に操縦桿を握っとったから日本が負けてしまうんじゃ。特攻隊ならなんで死んでこないんじゃ。わしの孫は十七で神風に志願して見事に軍神になったぞ。わしの孫が死んで、なんでおまえのようなアホのボンクラの非国民がのうのうと生きとんのじゃい。死ねやあ。ただ飯食らいが!」
老人が小屋から顔を覗かせて泣き叫んでいる。
「死ねえい! 死ねえい! おまえなんぞ死んでしまえ、この馬鹿たれ者が!」
「お孫さんはさぞかし立派な人だったんだろうな。だがこの俺も死に遅れはしたが、B29や新型グラマンの群れに飛び込んで、決死の迎撃戦を命がけで繰り返してきたのだ。この近くにB29が墜落しただろう。あれは俺たち飛行第299戦隊が命がけで撃墜したのだ」
「じゃかあしいわい!」
愚連隊が叫んだ。
「おのれなんぞにベー公が撃ち落とせてたまるかい! この大ホラ吹きめが!」
ベー公とはB29のことだ。
愚連隊の四人は南条を取り囲んだ。錆だらけの自転車チェーンやら短刀やらスコップやらを握り締めている。自転車チェーンを身体に叩きつけられたら肉は裂ける。スコップでぶん殴られたら頭は割れる。警察組織の反乱を恐れた占領軍によって警察は武装を厳しく制限されている。市中を巡回して歩くほとんどの巡査が丸腰だ。ゆえに警察は犯罪や暴力に対してまるで無力である。
南条は少しずつ後退りしながら背後からの不意打ちに備えて身構えた。
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