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自転車チェーンが風切り音を唸らせながら襲いかかってきた。間一髪だったが、南条はそれをかわした。赤茶色のスコップが鋭く唸って弧を描いた。避けた。
南条は自転車チェーンを振り回す愚連隊の懐に飛び込んで金的を蹴りあげた。愚連隊はチェーンを落とし、うめき声と共に身体を丸めた。南条は自転車チェーンを拾い上げた。それを握り直してから、愚連隊の背中に容赦なく叩きつけた。くすんだ色合いの茶色の背広が裂けて、ダボシャツの背中が見えた。
「飛行機乗りだからってええ格好すな!」
スコップが唸りをあげて、南条目掛けて真っ逆さまに落ちてくる。
左腕で振り払った。
激痛。だが、B29が雨霰と弾き出す機銃弾の凄まじさに比べたら、こんなものは痛みのうちに入らない。南条は自転車チェーンを叩きつけた。
「おわっ!」
スコップの愚連隊は、一瞬だが確かに怯んだ。その隙をついて南条は愚連隊の懐に飛び込んだ。鼻先に頭突きを連続して食らわすと、愚連隊はついには血を吐いたきり動かなくなった。
残りのふたりの愚連隊は、刃こぼれだらけの短刀を手にして何やら勇ましく叫んでいたが、ちっとも斬りかかってくる気配がない。
南条は自転車チェーンを放り投げ、懐から陸軍十四年式拳銃を引っこ抜いた。それをかまえてふたりに向けたところ、
「おぼえてやがれ」
捨て台詞を残し、愚連隊の極道者たちはゴキブリ顔負けの早さで逃げ去ってしまった。足下に転がっていたふたりもどうにか起き上がり、
「おぼえとれいよ!」
よろめきながら、消え去った。
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