BPM120

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「俺はここまで。これ以上行くとバレちゃうから」 ポケットからもう1つスタッフカードを出すと首から掛けてくれた。 わたしはそれを呆然と見下ろした。 セイのライブのスタッフカード。ファンにとってはたまらない。宝物を貰った気分だった。 「…そうちゃん?これ、は……」 それを手に取り持ち上げる。もしかしてという期待に、声が震えた。 そうちゃんは内緒話をするように、人差し指を口元にもっていくと、得意気に目を細めた。 「まだ公には内緒なんだけど俺ね、今日、特別出演するんだよね。セイと二人で歌うから楽しみにしててね」 こそっと耳打ちしてくれる。 それは、もしやアンコールで奏が出てくるってこと?ものすごい情報を聞いてしまい、背中がゾワゾワッとした。 「アリーナの最前列を越えると、さらにステージ寄りにマスコミと関係者用の招待客専用スペースがある。ロープで区切られてるから行けばわかるよ。そこに入って、座席はこれ」 ペラっと、何て言うこともないような仕草で招待チケットを見せられ、わたしは口を開きっぱなしだった。 今日のチケット。 大泣きするほど欲しかったチケット。両手でそれを受けとると、恥ずかしいほど手が震えていた。 まるで、一億円を手の平に乗せられたみたいに興奮した。 「せ、セイ、のチケット…。観れるの?わたし、観ていいの…?」 ぶわっと涙が溢れる。そうちゃんはそれを見てふはっと噴き出した。 「本当にセイが好きなんだね」 「…す、き…」 好きなんてもんじゃないの。人生そのものなの。初めて出会って一瞬にして虜になった日からずっと、彼の歌と一緒に生きてきたの。 今日だって、勇気を貰いにきたんだよ。 「泣くのはまだ早いよ!さぁもう始まっちゃうから!」 背中をトンと押される。 わたしはよろけて、アリーナ会場へと足を踏み入れた。 とたんにライブ直前の熱気が押し寄せる。歓声が頬にぶつかってくるようで目を細めた。 「詩子さん!急いで!」 そうちゃんはもう一度叫ぶと、一度周囲を見回してから、身を隠すようにコソコソしながら走って戻って行った。 わたしはアリーナ会場を、一歩一歩踏みしめながら進んだ。特別なスタッフカードとチケットを握りしめて、心臓をバクバクさせながらステージ前まで歩いた。
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