甘い砂糖菓子

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甘い砂糖菓子

愛子(あいこ)が明日から仕事を休む。 その日、半年程度休んだら復帰するのだから送別会は変だしと、お店のスタッフがお菓子をくれたと帰宅した。 子供達がそれぞれ部屋に入り、夫婦二人になってからがずっと二人の時間だった。 病気になってからも家にいる時はそれは変わらない。 ソファに座り、愛子の淹れてくれるお茶を待ちながら、テーブルに乗せられたお菓子を見つめた。 「可愛い入れ物に入ってるね。」 白色で丸い缶の入れ物で、蓋には十二単衣の女性の絵が描いてある。 上品で高級そうに見えた。 「高いのかな?気を遣わせちゃったわね。休むだけなのに…。」 お茶を運び、テーブルにお盆ごと置いてから愛子は誠一(せいいち)の隣に座り、テーブルのお茶を手に、誠一の手にしっかりと握らせた。 「ぬるいわよ?」 「そこ、熱いわよって言わないか?」 笑う誠一に文句を言いながら、蓋を開けてお菓子を一つ手に取る。 「可愛い、キャンディみたい。」 和紙と思われる白い紙に包まれたそれは、小さい子に食べさせる丸い小さなキャンディみたいだった。 「はい、誠一さん、あーん。」 「あーん。」 言われるまま素直に口を開けると、包みを開けた愛子が口に一つ放り込んだ。 優しい甘さが広がり、ホロホロと口の中で解けていく。 「もうなくなった…凄い…甘い、うまいな?」 「ん、美味しいね。優しい甘さね。それにすぐ溶けちゃう。これ、なんだろ?小麦粉、角砂糖にしては柔らかいし…。」 「角砂糖をそのままお菓子ですって売らないだろ?」 愛子の言葉に思わず笑う。 「和三盆だな。優しい甘さは。」 「あら?分かるの?凄い!」 キラキラした目を向けられて、得意顔で丸い菓子の箱に目線を送る。 「書いてある。」 「…………もう!」 菓子の箱を手にして愛子が読み、軽く俺の太ももを叩く。 ポスンと、優しい手の温もりがそのまま太ももの上にある。 穏やかな時間、二人だけの…ずっと…再婚してから積み重ねて来た時間、多分、嫌々ではなく、楽しみとお互いの優しさと努力で出来た大事な時間。 永遠に続けば良いと今は切に願う。 1日でも長く、1秒でも長く……目の前の女性の…一番大事な人の笑顔を見られる事が願いだ。
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