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「あいこー?」
「なぁにー?」
開かれたままのクローゼットの中から、大きな声がした。
「美容院、行って来たんだよなー?」
カタンとクローゼットの戸を閉めて、上のカットソーを被りながら愛子は出て来た。
「そうよ?短いでしょ?」
「短いけど…予想より長かったなと……その髪型…出逢った頃の…。」
ベッドの足元に立つ愛子を真っ直ぐに見た。
愛子の髪型は出逢った頃と同じ肩の少し上、横が短めで、前髪が揃ってる、可愛らしい感じの髪型で、ジッと見つめると恥ずかしそうに前髪をバサバサと指で触った。
「変かな?美容院なんて滅多に行かないからショートでも良いかなって思ったんだけど、誠一さんがくれたバレッタ、使えなくなっちゃうし、ボブにしようとしたけど…なんかね、昔に戻ってみたくなって。若作りかな?」
言いながらベッドの横に移動して来た愛子と手を繋ぐ。
「ううん、今も似合ってる。とても似合ってる。クリスマスには愛子に似合いそうなバレッタ、プレゼントするから。」
「本当?嬉しいな。楽しみ。」
愛子の髪に指を通す。
サラッとして優しい感触でそのまま頬に手を充てた。
「おかえり、愛子。少しは気分転換出来た?」
「美容院は肩凝るけどね?買い物は楽しかったかな。」
「そうか、良かった。」
顔を見合わせて二人で笑うと、お盆を手に優一が入って来る。
「良くないよ。買い物って食べ物ばっかり!!ちゃんと冷蔵庫入れないとダメでしょ?何してんの?」
「入れてくれたんでしょ?だってお父さんの方が先なんだもの。それに着替えたかったし?」
「入れたよ。はい、たい焼きとお茶。俺、少し部屋にいるね。何か用事あったら呼んで。」
「分かった。優一、ありがとう。」
「うん。」
後ろ向きに片手を上げて、優一は出て行った。
「食べよう?しっぽ、頭?」
「尻尾。」
「言うと思ったぁ。」
食欲は落ちているからたい焼きは半分こ。
何も言わなくても優一も最初から一つしか持って来ていない。
愛子も笑顔で半分にして、尻尾を渡してくれた。
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