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その日最後に書いたノートには、
ーー最後に課長に推せた事、それは良かったと思っている。本当に好きだった、それを否定する気も誤魔化す気もない。誰に対しても本気で愛していたと言える。ただ俺たちは間違えた。愛し方も一緒の意味も間違えていた。
ーー優一は愛子に似てる。人が好くて心配にもなるけど、そこを大事にして欲しいとも思う。優しくてとても愛情深い人になってくれている。良い子に育ててくれた、愛子に感謝しかない。
キッチンから愛子の夕食の支度をする音がする。
それを聞きながら幸せを感じて安らぐ。
ノートに手を伸ばし、サイドボードの僅かなスペースで書き込む。
ーーー愛子が髪を切りに行った。出逢った頃と同じ髪型で懐かしかった。あの頃の愛子に再会出来た。もう一度やり直せたら、もっと愛子を上手に愛せるのに…。
そんな風に書いたその場所を、ずっと後になってパラパラ捲っていた時、目に留まった。
赤ペン先生みたいに、赤い字で愛子の字で知らない間に書き込まれた言葉。
ーー上手になんて誰も愛せない。みんな大事だからこそ手探り。
それに最初から仲良し夫婦だったら優一がいなくなっちゃうし、それはダメでしょ?それに…誠一さん、絶対浮気しないとか言える?案外、離婚してたかもよ?もっと早い段階で!色々あったから復縁したからいい夫婦になれたと思う。だからこれで良かったの!ーー
「優一がいなくなるのはダメだな……うん。」
そのノートは暇を見つけては書いていたが、時々、赤ペン先生を見つけては笑ったり納得したりしたものだった。
心残りがない様に書いていたはずなのに、愛子との交換日記みたいになっていった。
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