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何とか話す時間をもらえて、ここで正社員として働いている事と俺の出向の話をして叱咤された。
何処に行っても仕事が出来る人だと思うから勿体ない、そう言われてドキンとした。
そんな風に言ってもらえただけで嬉しかった。
憎まれても仕方ないのに、愛子が真っ直ぐに見てくれていると思うと楽しそうに働く愛子を見て、自分も愛子みたいに真っ直ぐ楽しく働こうと思えた。
***
「愛子はいつも俺を幸せにしてくれる。」
呟いて目を開ける。
「うわっ!!何だよもう!怖いだろ!」
「帰るってラインしたのに!ただいまって何回もゆった!!」
目の前に愛実の顔があって驚いてしまった。
「お母さん、買い物早くない?お父さん一人にするなんて。」
ブツブツ言いながら、先に顔を見に来ただけだから手を洗って来ると部屋を出て行く。
「お母さん、何時に出たのぉ?」
洗面所にいるのだろう、大きく声を張って愛実が言っているのが分かるが、僅かに聞こえるだけで、俺にはそこまで大きな声は出せないなと苦笑していると、バタバタと走る音がして愛実がドアの所に顔を出した。
「お母さん!何時に出たの?」
「20分位前かな?愛実が帰って来るから俺が大丈夫だって言ったんだよ。卵が4時から先着で百円なんだ。」
「あー…あそこ4時からタイムセールだもんねぇ。卵は二千円以上お買い上げのお客様じゃなかった?」
良く知ってるな…中学生、と思いながら誠一は笑う。
「我が家はそれ位軽く買うよ。毎日買い物に行ってる訳じゃないしね。荷物持ちしたかったんだけど、父さんが行ったら邪魔になるから。」
そんな事さえしてあげられなくなったと横になったままで天井を見上げた。
「あー、邪魔になるだろうねぇ。」
完全に娘に嫌われていると落ち込むと、続きの言葉が耳に入る。
「お父さん、お母さんべったりでセールの人の隙間には入っていけなさそうだもん。セールは闘いだから、お父さんが手を繋いでたら邪魔以外の何者でもないよね。」
きょとんとした顔で少し頭を持ち上げて愛実を見てから、ブハッと笑ってしまった。
「何よー、人の顔見て笑うなんて失礼なんだからね!」
プン、と頬を膨らませておやつの意味不明な歌を歌いながら、姿が消えた。
「おやつ♩おやつ♩きょーのおやつはなんじゃろかぁ〜♪イエイ!アイス!アイス、お父さん、食べる?」
歌いながら戻って来て、ベッドの横、置いてある四角い小さなスツールに座った。
四角いスツールは中に入れ物も入れられる物で、四角いので上にお盆を載せればテーブル代わりにもなると、愛子が買って来た物だ。
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